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1596 cc  5MT

全長x幅x高 4005x1875x1670 mm

ホイールベース 2665 mm 

重量 1380 kg 前840 kg 後540 kg




ムルデザイン考

眺めているといろいろと考えずにはいられないスタイルとディテール。

あらためて理解に至る点もあろうかと、勝手な解釈を試みる(2017年~)。


17. フロントシート

 

ムルティプラのフロントは、リアシートと同様、3個とも同じ幅だ。
ただしカタチはちょっと違って、運転席と左助手席は、他のシートよりもバックレストのサイドサポートが張り出している。

 

中央席は、リアシートと同様に座面後端に段丘がある。この段丘は、シートバックを前に倒してフラットにできるようにリクライニングの回転軸をちょっと高くした結果として設けられている。

 

中央席のバックレストにはシートベルトが組み込まれている。シートバックをフラットにすると、これが運転席のアームレストになる。


フロントはいずれのシートも前後にスライドできるが、力が必要で、子供は操作できないし、意図せず動いてしまうことがないので安全ではあるが、それにしたって動きが渋すぎる。
運転席だけは電動で上下する。

 

フロントシートの配置ピッチはリアと同じ490 mm。リアは車体中心に対し対称に置かれているが、フロントは全体に左に寄せられている。運転席側の空間を確保した形だ。さすがに左助手席側は、シートベルトのバックルの収まりどころがままならないほどドアに近い。

 

運転席に座ると、左脚のフットレストの幅が広いことにホッとする。

フットレストがしっくりこないとストレスになる。申し訳程度に設けられた足踏み式サイドブレーキ搭載車のフットレストは、ないよりはましだが、本来の「rest」の意味をなしていない。ここで文句を言ってもしょうがないが。

 

中央席に座れば、両足が置けるフットレストがある。これも気が利いている。

この下にダクトやら配線が格納されているから、そのカバーも兼ねている。

 

 

中央席の前面には、幅広のウィンドウスクリーンを通して広大なパノラマが広がる。必要のないメーターもついでに拝まされることにはなる。

 

左助手席はドアに近いが、肘をドアのガラス下端のでっぱりに置けば快適だ。その前側にはドアグリップがアーチ状に生えている。突飛なデザインだが、ドアウィンドウ下端(ベルトライン)が低いムルにとっては必然のカタチだ。

 

グリップは、ドアハンドル、パワーウィンドウスイッチ、スピーカーと一体になっていて、そのユニットは布地を張り付けたドアパネルに取って付けたようにはめ込まれている。大きめの固定用ねじも敢えて隠さず、幼児用玩具のようだ。その材質は褒められない。風化が進み、触れば触るほどぽろぽろと樹脂の粒がはがれていく。

ドアハンドルは超絶に指がかけやすいカタチだ。手首をねじる必要はなく、そこへ手を差し伸べれば自然に指がかかり、丸みがあって当たりもやさしい。意図的に開けにくいカタチにしているのでは?と思うドアハンドルが世の中には存在する。


フロントシートがテーマだが、話がドア部に及んでしまった。

 

もう一つだけ言っておくと、シート、ダッシュボードとドアトリムは、見ての通り青色である。

 

2019-12


16. ボディ剛性


グラスエリアが広大で、林立するピラーがか細く見えるムルティプラ。普段、ボディ剛性を意識することはないし、そもそも期待もしていない。取り外し可能なリアシートは支持剛性が高くないので、15インチタイヤのややバタつく足回りからくる振動によって揺すられ、いまいち落ち着かないし、サンルーフを背負ったルーフはドアを閉めると跳ね上がる。

しかし骨格の剛性は意外と低くないと思うことがある。

ドア周りのフレームやドアサッシがたわんで発生する振動は、ピラーとドアサッシの
すきまに指を差し込むことで感じ取ることができる。平坦な道路を走っていても、すきまがプルプルと変動するクルマはある。ムルティプラはこれが微動だにせず、まるでドアサッシが各コーナー部でラッチされているかのように一定のすきまをキープし続けるでのある。

ボディを構成する閉断面フレームの曲げ・ねじり剛性、さらにはそれらの接合強度が高いのだろう。前席ではそれが感じられる気がする。ブッシュのへたりなど放置状態であるからガタゴトするところもあるが、少々雑に扱ってもヨレやヤレを感じないといったら言い過ぎか。大径インチホイールのドタバタがボディを「バヨヨ〜ン」と揺さぶる他車から乗り換えたとき、相対的に感じるレベルの話ではあるが。

2019-07


15. その他の2段グリル

 

2代目ムルティプラ旧顔の以前も以降も、2段グリルは量産車には見あたらないが、コンセプトカーなら散見される。はたしてムルに匹敵するクルマはあるのか。評価のポイントは二つ、3点満点で採点しつつ見ていこう。 

  • 2段生き別れ度:フロントシールド下端、およびフロントエンドの両方に灯火類、もしくはエアインテークやバッジがあって、それぞれがどれだけ離れ離れになっているか。
  • 段付き度:フロントシールド下端が段付き形状でかつ逆スラント部があれば文句なく3点。

もちろんムルティプラ旧顔はいずれも3点満点である。

 

ちなみにグリルは格子状のエアインテークのことだが、ここではフロント部の灯火類を含めた「顔」としての意。

 

1981 Lada X-1

これだけスリークで短いノーズなら、フロントウィンドウ下端にヘッドライトを配置するのは合理的だ。フロントエンドをヒットした場合でもヘッドライトの破損は免れる。うまくやればワイパーの払拭領域でライトもカバーできたかも。グラスキャビンには骨格が見当たらなかったり、サイドミラーがなかったりはするが、一番気になるのはフロンスクリーン内側のダクトのようなものが何なのか、である。
2段生き別れ度:2、段付き度:0
http://www.carstyling.ru/en/car/1981_lada_x_1/

 

1984 Citroen Eco 2000

ウィンドウシールド下端にライトを配置した2段グリル。ルーフは段付き
2段生き別れ度:2、
段付き度:0
http://www.carstyling.ru/en/car/1984_citroen_eco_2000/

 

1987 Nissan1 Jura

ウィンドウシールド下端にライトを配置した2段グリル。Lada X-1の市販版ともいえるようなカタチ。面白度ではラーダに軍配。
2段生き別れ度:2、
段付き度:0
http://www.carstyling.ru/en/car/1987_nissan_jura/images/6623/

 

ここまでの3台に共通するのは、エンジンフードがフェンダーまで回り込んだスリッパ型だということ。ヘッドライトがフロントエンドにないため、つるんとした形状にしたくなるのだろう。

1988 Lamborghini Genesis (Bertone)

フロントエンドから始まる広大なウィンドウスクリーンの下端に僅かな段付きを持つGTワゴン。後述のポルトフィーノ(1987年)とともに、クライスラーの傘下において、ランボルギーニからこれらの魅惑的なコンセプトカーが世に出たというのが興味深い。
エンジン搭載位置の特異性が生み出す、長いフロントオーバーハングと短いリアオーバーハング。アンバランスではあるが、これが妙にクールに感じられる。EVで復活してほしいが、このバランスにはなり得ないだろう。
2段生き別れ度:0、段付き度:1
http://www.carstyling.ru/en/car/1988_lamborghini_genesis/

 

1989 Ford Via

段付きではないが、フロントウィンドウ下端に光ファイバーによるヘッドライトを配した2段グリル直下に設けられたエアインテークとともに、フロントセクションのアクセントになっている。

このフロントコンパートメントは、V8ターボエンジンが収まっているとは思えないほどコンパクトだ。それと相まって、低いベルトラインに大きなグラスキャビンが、最新のEVと言われてもおかしくないほどのグッドバランスで、古さを感じさせない。
2段生き別れ度:2、
段付き度:0
http://www.carstyling.ru/ru/car/1989_ford_via/

 

1990 I.A.D. Mini MPV

全長: 4300 mm、全幅: 1700 mm、全高: 1900 mm、ホイールベースは2390 mm。

ムルより300mmほど長く、175mm狭く、130mm高い。ホイールベースはなぜか270mmも短い。

広大なウィンドウシールドの下4分の1ほどにヘッドライトがあり、その下はシースルーになっている。ステアリングはセンター配置で、両サイドの助手席は1席分後退している。6座だろうか。ムルティプラのスタイルに何らかの影響を与えていそうなアバンギャルドな成り立ちだ。

2段生き別れ度:2、段付き度:0
http://www.carstyling.ru/en/car/1990_i_a_d_mini_mpv/

 

1990 Pontiac Sunfire 2+2

前進させたフロントウィンドウ下端に薄いライトを埋め込んだ2段グリル。
2段生き別れ度:2、
段付き度:0
http://www.carstyling.ru/en/car/1990_pontiac_sunfire_2_2/

 

1980年代後半のビッグスリーによるセダンやクーペのショーカーにはエンジンフードが低く短く、キャビンフォーワードに見えるデザインが多い。その発端かどうかは知らないが、Chrysler Lamborghini Portofino(1987年)によって、フロントセクションがコンパクトであることのカッコよさが示された。もっともこれはミドエンジンレイアウトが可能にしたスタイルではあるが。

Pontiac Sunfireも前出のFord Viaも、そのスタイリング流儀に則ってデザインされ、特異なヘッドライトの配置もその短いフロントセクションが可能にしている。
その後のコンセプトカーでは、フロントウィンドウはどんどん前進し、キャビンは前のめりになっていって、このままエンジンフードなどなくなってしまうのではないかという勢いだったが、その流れは持続せず、日本国内の量産セダンにも何ら影響はなかったようだ。
今後、Portofinoのようなデザインの量販車が現れることを期待したい。
EVなら可能だろう。2段グリルから話は逸れたが、それほどポルトフィーノはスタイリッシュだ。
https://www.topspeed.com/cars/chrysler/1987-chrysler-portofino-ar36647.html

 

1991 NISSAN Cocoon

段付きグリルとは言い難いが、フロントウィンドウ下端にアクセントを求めたかったのがわかる。奥まった異形ヘッドライトや、ボディの丸い感じ、意図してはずした感じがムルティプラに通ずる。3列6座。

2段生き別れ度:0、段付き度:1
http://www.carstyling.ru/en/car/1991_nissan_cocoon/

 

1991 TOYOTA Avalon
可倒式ウィンドウシールドの下に上段グリルがあるサプライズカー。見所が多すぎて何も見えてこない。
2段生き別れ具合:2、段付き度:2

http://www.carstyling.ru/en/car/1991_toyota_avalon/

 

1992 Bertone Blitz
段付きグリルを持つ2シーターEVスポーツ。スポーツカーに段付きグリルは稀有な例だ。
2段生き別れ具合:2、段付き度:2
http://www.carstyling.ru/en/car/1992_bertone_blitz/


1993 Ford Sub-B

丸いフロントシールド下端に丸目4灯を配した色違いのグリルを持つ。フロントエンドはつるっとしているが、バッジとポジションランプはついているから、一応2段グリルである。1991年フォード・コネクタからのパンと膨らんだ感じは、この後ムルティプラが引き継ぐことになる。
2段生き別れ度:2、段付き度:2

https://www.allcarindex.com/auto-car-model/United-States-Ford-Sub-B/

1993 Mitsubishi ESR
2段生き別れ度:2、段付き度:0
http://www.carstyling.ru/en/car/1993_mitsubishi_esr/

 

1993 Mazda HR-X2

ダッシュボードのブロック内にライト類を取り込んだ2段グリルである。ムルティプラとは違って、理解したいという欲求が湧いてこないスタイル。せめて、サイドウィンドウ下端をウェストラインまで下げるか、上段グリルの処理をウェストライン上に一周回すとかしてくれれば...、という問題でもないか。
2段生き別れ度:3、段付き度:1

http://www.carstyling.ru/en/car/1993_mazda_hr_x_2/

 

1993 NISSAN AP-X

フロントウィンドウ下端に設けられ、サイドミラーの付け根まで伸ばされた一見謎の段付き部分。段丘フリークの目をくぎ付けにする処理である。車内からの写真には、この下にきっちりと収まったワイパーが見えるから、ワイパーのシールド用だろう。そう思ってみるとスペシャルな感じがしてくる。これによって、空気抵抗が増えたとしても、ワイパーゴムの交換が不便になったとしても、こういうギミック好きは存在するから市販してもよかった。
2段生き別れ度:0、段付き度:2

http://www.carstyling.ru/en/car/1993_nissan_ap_x/

 

1994 Fiat ZIC

ムルティプラを手掛けたRoberto Giolitoは、同時期に、ウェストラインの上にライトを配置した段付きグリルをマイクロEVにも試していた。この手のマイクロカーは多いから、この1台にとどめておこう。
2段生き別れ度:1、段付き度:0

http://www.carstyling.ru/en/car/1994_fiat_zic/

1994 Fiat Firepoint (ItalDesign)
鏡餅のような段付きグラスキャノピーは、ムルティプラより難解かもしれない。
2段生き別れ度:0、段付き度:2

http://www.carstyling.ru/en/car/1994_fiat_firepoint/ 


1994 Peugeot Ion

ウィンドウシールド下端にライトを配置するのは、アニメ映画のカーズ(2006年)を連想させる。2段グリルをクールに決めるのは簡単でないことがわかる。
2段生き別れ度:1、段付き度:1
http://oldconceptcars.com/1930-2004/peugeot-ion-1994/#&gid=1&pid=4

 

1994 Renault Modus
シースルーの逆スラント部が魅力的。球面とボックスの組み合わせ具合が見ていて飽きない。ムルティプラのデザインを受け入れられる人間であれば絶対に好きなカタチ。ムルティプラと同時期で、ウェストラインも思いっきり低い。ムルの新顔は縦長の目でもよかったと思ったが、ここでやられちゃってたのである。
2段生き別れ度:0、段付き度:3

http://www.carstyling.ru/en/car/1994_renault_modus/

 

1996 Fiat Vuscia (I.DE.A)
ムルティプラと同時期に6人乗りのスタイリッシュなミニバンの提案。

2段生き別れ度:1、段付き度:0

http://www.carstyling.ru/en/car/1996_fiat_vuscia/

  

1998 Maggiora CityMagg Droll
段丘フリークをうならせる多段フロントセクション。
2段生き別れ度:1、段付き度:3

http://www.carstyling.ru/en/car/1998_maggiora_citymagg_droll/

 

1999 Nissan AXY

フロントウィンドウの延長上にライトを配置。段丘フリークには物足りない。
上段グリルにライトを配置した場合、ファニーファイスになりがちだ。
2段生き別れ度:2、段付き度:0

http://www.carstyling.ru/en/car/1999_nissan_axy/

 

2001 I.DE.A KAZ

2段グリルの典型例の一つといっていいかもしれない。リアも段付きだ。公道バージョンでは段付き部が手直しされ、ワイパーが組み込まれサイドミラーと一体化されている。
2段生き別れ度:2、段付き度:3

http://www.carstyling.ru/en/car/2001_i_de_a_kaz/

 

2003 Ford GloCar

段付きグリルと言っていいか悩む1台。これを段付きと言ってしまうと、「段付きグリルは必然ではなく情緒的なものである」という定義(?)を揺るがすことになる。シンプルに来られると弱いのである。
2段生き別れ度:0、段付き度:1
http://www.carstyling.ru/en/car/2003_ford_glocar/

 

2018 Volvo 360c

逆スラント部をもつ上段グリル。人間がウィンドウシールド越しに前方を目視することを前提としていないスタイル。そういう時代がそこまで来ている。ムルもこのくらいクールに決めていれば。
2段生き別れ度:0、段付き度:3

http://www.carstyling.ru/en/car/2018_volvo_360c/

 

2019-01


14. 早い者勝ち?

 

2段グリルはどこが最初に量産車に採用するのか。

 

そんなせめぎあいがあったかどうかはわからないが、1997年、トヨタスパシオのアイディアスケッチの中にも、低いウェストラインのロワボディに、ボリュームの大きいグラスキャビンが組み合わされたミニバンが描かれている(↑ 左中央)。フロントウィンドウ下端の張り出した部分には前照灯類が内蔵されている。

 

上の写真は Car Styling誌 No. 117( 1997.3)から。この号にムルティプラのプロトタイプが登場する。

 

初代スパシオは、全長4135 mmに3列6座を詰め込んだミニバンであるが、2列目は子供用であった。ムルティプラは全長4mという制約に対して3列配置を断念している。初代ムルティプラの時代や、初代日産プレーリーが4mちょっとに3列8座を実現した1982年ごろならともかく、現代においては簡単ではないようだ。


空間をかせぐ必要のあるミニバンにおいて、キャビンは必然的に前進し、ダッシュボードはエンジンルームに覆いかぶさるように配置されるようになる。この必然を端的に表現した2段グリルを市場に問いたいと考えたデザイナーは少なからずいたはずである。

 

ムルの2段グリルは平面方向に大きくラウンドしているから、Cd値への影響はその他の何らかの処理でカバーできるくらいだったのだろう。問題は「空気抵抗が大きく燃費が悪そうだし、メリットなさそう」と素人目に映ることだろう。なじみのない2段グリルを必然のあるものとして訴求できなければ、単に奇をてらったものとして受け取られてしまう危険がある。

そんな中、フィアットが口火を切ったわけである。

 

結局、一般ユーザーを納得させるだけの必然はなかったということになる。あったのは、禁断の2段グリルを市場に問うチャンスを逃したくないという作り手の思いと、このディメンションにおいて2段グリルがうまいこと収まったという事実だろう。2段グリルを否定した新顔がフロントセクションをまとめきれず辻褄の合わなさを露呈していることがその証明だ。ムルティプラの特異な体型が2段グリルを要求したのである。

他メーカーはやられたと思ったか、やらなくてよかったと思ったか....。いずれにしても、あまりにも”派手”にやられたので、追従しようにもできなかった、というところだろう。


フィアット自身もアップデートできず、2段グリルは事実上封印されることになる。

ビッグキャビン+2段グリルは、エンジンフード下に空間を確保しにくいため、歩行者保護の点でも難しいのかもしれない。でも、スパシオのアイディアスケッチの方向性は今でも市場に問う価値があるし、EVで実現する可能性があるだろうとみる。

2019-01


13. 理解できたか 2018

 

2017年初頭から2年ほど、ムルティプラのカタチを理解しようと、ゆるーく更新を重ねてきたが、はたしてどれほど解釈できただろうか。

ムルティプラのこのカタチのアイディアが明確になったのが1995年、プロトタイプがショーデビューしたのが1996年、市場に投入されて20年が過ぎた。この間、ムルティプラに近づこうとするクルマはほとんど無かったといっていい。


そのカタチは、イケてるところもあれば、イケてないところもある。
美しい両サイドのアーチや、フロントフェンダーの抑揚。凝縮感を醸し出す低いエンジンフード、それに覆いかぶさる上段グリルとフロントタイヤの位置関係は、敢えて言えばキャビンがフロントにめりこんだミッドシップスポーツカーのようだ(言い過ぎた)。

全体を遠目に見ると、膨らんだボディに狭いトレッドがマンガ的。フロントとリアはもはやファニー感しかない。手がかかる点は愛嬌でカバーする作戦だったようだ。

全長4mという制約から、箱型商用バン風のカタチになってもおかしくなかったが、それはコンセプト段階において微塵もなかった。イタルデザインのカプスラ(1982年)、トゥギャザー(1984年)などのスペース効率とデザインを両立したモデルを目の前で見てきたメーカーの造るクルマである。「こうきたか!」がないカタチにはなり得なかった。

多面的である。

抜けているように見えるが、しっかりものである。

実用車だが、見どころの多い奇抜なスタイルはスーパーカー級である。

6人乗りミニバンだが、ハンドリングはファンである。
ミニバンと言ったが、ミニバンではないような気もする。


まさに、多様(multiple)で捉えどころがない。
理解しようとしても、他と比べようとしても、躱され、いなされ、無力感のみが残る。

 

結局何ら収束が示せないのは、理解しようとする側にも原因があるが、ムルティプラ自身にも責任がある。当の本人が自らを否定し正常進化を遂げなかったのだ。

 

突然変異したものに正常進化を期待してはいけないのかもしれないが。

2018-12


12. 消えるリアピラー

 

ルーフサイドのアーチ状ラインはやがてリアピラーとなり下降するとともに徐々に見えなくなっていく。

リアクォータガラスが丸いのである。ベルトラインに接する下端は大きくラウンドし、リアピラーの上部に接するあたりもプルっと丸い。実際は上部はそれほど丸くないのだが、内圧で膨らんでいるような丸みが感じられる。ねじれ落ちていくリアピラーによってそう見える。

なかなか官能的な処理である。

 

 

構造上のリアの支柱は ガラスの内側に存在する。外皮として氷山の一角のように細いリアピラーが見えているのである。支柱とラウンドしたガラスの間にサンルーム的なすきまがあって、そこから覗けば金魚鉢の中の金魚になったような気分が味わえる。

2018-09


11. 上段グリルのモディファイ

 

上段グリルを上から見ると、大胆にラウンドしている様子がわかる。

横から見れば、センターで130mm、ハイビームのあたりで170mmの段差で、かなりのボリュームである。

ハイビームがなかったら完全に「間」が持たないし、あっても持て余している。
Aピラーの付け根のハイビームとドアミラー間の何もない部分にもう一つウィンカーを付けて、完璧な2段フロントグリルにしたいくらいだ。

  

 
ここが気になるのである。

 

「見えにくいカタチ」の項で見た通り、上段グリルの下半分に陰影が付くとイメージがガラッと変わるから、このラウンドした部分の下をえぐって薄く見えるようにし、ついでにドアミラーの付け根の黒い部分をハイビーム側に延長するとどうか。またはラウンドした部分の下半分を全部ブラックアウトすれば、ベルトラインから浮いたように見えるがどうか。いっそのこと、Aピラーの根元をセンターにラウンドせず、ハイビームの両側で断ち切る(ハイビームの内側をブラックアウトする)とどうか...。

 

無駄な妄想は続く。

 

2018-01


1. 低いウエストライン

 

ムルティプラの変①:全高に対して低いウエストライン

ハイビームを上段に配した2段フロントグリル。

これがムルティプラのスタイルの一番の特徴であることは間違いないが、そのベースには低いウエストラインがある。


低いウエストラインに天地の大きいサイドウィンドウを配した上屋を乗せてはみたものの、さすがにフロントウィンドウはこの角度でウエストラインレベルまで伸ばすわけにはいかず、下端はグリル状にしてみたが、間が持たないのでハイビームをつけた、ようにも見える。
 

この低いウェストラインは車体をぐるっと一周して途切れることがない。

ウエストラインの上下で異質のものが合体している感じにも見える。

 

上段グリル位置に収まるダッシュボードはハンドルとともに、低いウエストライン越しに丸見えである。


 シート座面は高めだから、前席乗員はへそからちょっと上の上半身が見えてしまう。
ドライバーからはセンターラインから何から右横下のものが他のクルマよりもよく見える。


ガラスは下げても下がり切らず7分の2ほども残るから、窓からひじを出した状態はこの車ではありえない。
その代わり、ドア内側のガラスとの境には、ちょっとした台地(ひじ置き)があって、その先にはウエストラインから上に飛び出す形でドアハンドルが生えている。

 
ガラスが下がり切らないから、ドライブスルーや料金所では、横着して中途半端にしか開けていないと思われている、きっと。

 


2. でことアーチ

 

ムルティプラの変②:ひとくせあるルーフ形状は何のためか?

 

2段グリルの次に目が行くのが、上段グリルからAピラーを経由しB、Cピラー上端を通って、ルーフエンドでねじれながらウエストラインに下るラインである。下るにしたがって左右のラインの距離が狭まっていくところがリアデザインの特徴だ。(リアガラス上端 /下端幅:1285 / 1265 mm)


ルーフ全体はこのラインとは分離して平板的で、縦断面中央で見ればフロント側、リア側ともに前後に伸びているので、真横から見るとウィンドウ上端が張り出した形になっている。別のクルマのルーフの稜線が向こう側に見えているような違和感のあるカタチだ。

リアエンドについてはルーフがスポイラー状にせり出した例は見かけるが、フロント側の「でこ」は他では見られない形状だ。
  

上段グリルを「でこ」という向きもあるが、ここではフロントウィンドウ上端部を「でこ」と言う。

 

この「でこ部」を除いた横断面で見れば、ルーフ中央よりサイドウィンドウ上端のほうが高く盛り上がっている。普通に丸いルーフを乗せてもよさそうだが、そうはなっていない。

 

平板なルーフ部は、ボディ両サイドで形成されるアーチの間に張った幌のようにも見える。アーチが構造上の骨格として見えるように意図されたデザインだ。

 

 

ルーフと同じ高さから見ると向こう側のアーチも見える。全体に丸くずんぐりしたボディも、ここだけ見るとロングルーフのエステート風だ。このアーチとルーフ形状が、このスタイルの最も洗練された部分である。

 


3. 「目の付けどころがへんでしょ」

 

 ムルティプラの変③: 目元・口元はこれでよかった?

 

ロービームは楕円でも丸でもなく、やや四角っぽい。コンセプト段階(1996年)ではもう少し丸く見える。ハイビーム、ウィンカ、フォグは楕円もしくは丸だが、さすがに全部円形だと無機質で「顔」に見えなくなってしまうということか。ハイビームも初期から手直しされ少し大きくなっている。

 

1994年あたりの国内のショーカーをちょっと見ただけでも、マツダ HR-X2、三菱 ESRなどがフロントウィンドウ下端にライトを配置、さかのぼれば日産 Jura(1987)* なんてのもあったから、ムルティプラが突然変異ということでもなさそうだ。でもロービームとハイビームがここまで生き別れ状態なのは他には見当たらない。

 

今一度にらめっこ。

下の顔のロービームに間にある小さめのラジエターグリルは、前歯が抜けてにっと笑った口元のように見える。イタリア人も擬人化して見るのだろうか。”ムルティプラ” は「女性」名詞とのことだが....。

 

このやや不気味な顔をいくらかでも上品にしていたら、大きなマイナーチェンジをせずに行けたかもしれない。

 

*)  Lada X-1(1981年)
遡ればまだまだある。

http://www.carstyling.ru/en/car/1981_lada_x_1/v

 


4. つるんと加減

 

ムルティプラの変④: 未来感も欲張った。

 

垂直に近くそそり立つサイドウィンドウもすべて3次曲面で構成されている。ガラスとピラーの段差は最小限で全体に凹凸は少ない。

 

新しいのか旧いのか判断しにくいたたずまいではあるが、先鋭的で未来を感じさせるところがあるとすればそのつるんとした表皮感。
 

ただし、ロービームの周辺は抑揚がついていて、盛り上がったりくぼんだりしているし、テールのコンビネーションランプもぼこぼこと出っ張っていてかさぶたみたいだ。

 

丸さ、つるんと加減、未来感では、コンセプトカーではあるが、Ford Ghia Connecta (フォード ギア コネクタ  1992年)が先にいっちゃってる。 

http://www.carstyling.ru/en/car/1992_ford_connecta/

全長は4204mm、全高は1549mmで、ムルより200mmほど長く、120mm低い。EVだからフロントセクションのデザイン的制約は小さく、フロントウィンドウ下端は思いっきり低く前進している。モノスペースでもない、1.5BOXミニバンでもない魅力的なプロポーションである。

子ども用の3列目シートは後ろ向きに設置され、まあるいリアハッチからは潜水艇の丸窓から覗いたかのような景色(たぶん)が広がる。


5. 一度は気になる非対称

 

ムルティプラの変⑤: いろいろと非対称

 

前列に3列に並んだシートは車体中心に対称に配置されているわけではなく、左助手席のほうが運転席よりもドアに接近していて、中央席は車体中心よりわずかに左寄りだ。

運転席シートとBピラー内側の隙間は最も狭い部分で35mm、一方助手席側は10mmちょっとだ。運転席はいろいろと作業をしなければならないので当然だろう。

 

バックミラーの位置が運転席寄りなので、左右のサンバイザーの大きさが違うのは理解できる。

 

ダッシュボードは左右の部品の共用などを考慮してある程度は対称にするの普通だがこのクルマは違う。
ダッシュボードの上面には運転席側・助手席側それぞれにフタ付きの収納トレイがあるが、大きさ、形状、設置高さが違う。取っ手の形も異なる。助手席側には手前にエアバッグを仕込まなければならないから、まあこれも理解しよう。

 

次に気になるのが、丸いエア吹き出し口とサイドウィンドウ用のデフロスターの位置。

運転席側は少し手前にあり、助手席側は少し奥まっていて設置角度も緩い。そのためドアの三角窓の内側樹脂パネルの形も左右で異なっている。三角窓の視界を妨げないように助手席側のこの部分を下げるなら理解できるし、そういうケースもある。が、これはそうではない。


わずかな違いだから気が付かないオーナーもいるだろう。

 

確かに室内横幅は広大だが、横3人掛けにしたことでシートひとつあたりの幅は狭いわけで、助手席側前方を遠ざけることによって窮屈感を緩和しているということなのだろうか。


気になって夜も眠れなくなったら次のように考えよう。

中央のメーター・スイッチパネルがもうこんなありさまだから、その両サイドが対称だと逆に変だと。

そして芸術のためなら樹脂パネルの1個や2個余分に作るくらいなんでもなかったんだと。


6. "strana"であり続けられず

 

緻密にかつ大胆に構成されたプロポーションとディテール、遭遇したことのないスタイルは、スーパーカー的と言ったら言い過ぎか。単にファニーなだけでないデザインは、メーカーとしては相当の意欲作であったはず。

 

開発初期にはフロントエンドからワンモーションでルーフにつながるデザインがいくつか検討されたようだが、2段グリルにライトを配したこの楽しげな形を見たら、それまでの案を推すのはためらってしまう。

 

「変なクルマ」という市場での評価は決して悪い意味ではなかったと推測するが、「変なクルマ」であり続けることはできなかった。

 

大幅なマイナーチェンジで2段グリルは消滅し、パンッと張ったボリューム感はなくなり、絞り込まれた下段グリルとその両側に唐突に配置されたコンビネーションライトによって、頭でっかちが強調されることになった。遠目からは特に。まあ、遠目にはどっちも違和感のかたまりだが。

 

http://www.carstyling.ru/en/car/1996_fiat_multipla_concept/images/19688/


7. つけどころも問題だが...

 

再び目の話。

 

生気がないというかやる気がないというか。

澄んだ目の上段ハイビームに比べ、下段ロービームは濁って焦点が定まっていない。
黒目が不明瞭で深海魚の退化した目のようだ。 


黒目を書き込んでみた(クリックすると拡大)。

オリジナルだけ見ていたら気付きにくいが、この淀んだ目が醸し出す無表情な印象が諸悪の根源であるように感じられる。

 


上段ハイビームは、ラウンドした上段グリルの左右のかなり離れた位置に付いていて、横方向の周辺視野も確保しているようだ。ムルの横に立つと、なんだか視線を感じるのはこのせいか。

右目と左目で違う方向を見ているから、ここだけ見ると魚類か爬虫類か草食動物か、はたまた宇宙人か、いずれにせよ間が抜けている。


上はあさっての方向を向いているし、下はぼやけているし、どうにも擁護しにくいムルの目。 

 

上の目はこっちも見ている。


8. アッパー/ロワボディ

 

ロワボディのボリュームを基準にすれば、全高は下の写真(ガラスエリアを上下にカット)くらいが普通だろう。

 

ムルティプラの全長は4005mm(イタリア本国仕様:3999mm)。

日本仕様は4mを超えたから、佐渡汽船、直江津~小木間往復は、+6210円(2割増し)。

グランデプント(最終型:4080mm)、ブラーボ(4025mm)、セディチ(4115mm)よりも短い。
前期型では全長4mの制約があったようだが、この4mがこのクルマのいろんな逸脱を生み出している。

ムルティプラの全高は1670mmだから、全高/全長は0.42で、日産キューブが同じような比率だ。
キューブも特異なカタチだが、アッパーボディ、ロワボディの関係は常識的。

 

ムルティプラの場合、普通のハッチバック相当のロワボディのままルーフラインを高くしているから、アッパーボディが異様にでかい。 アッパー:ロワボディの高さ比は、0.82:1である。

 

この比率がもっと非常識なのは、ミニカトッポ(1990-1993、1993-1998年)で、スーパーハイルーフ仕様はアッパー:ロワボディが、1.16:1である。 コンセプトカーでは、NISSAN com com = 1.44 、RUNALT Modus = 1.26 などがあるが、量産車では十分にマンガ的な比率である。

 

ムルティプラとトッポの大きな違いは床の高さにある。トッポは床・座面位置はそのままで、頭上空間がめっぽうデカいが、ムルティプラは床位置を上げ、着座位置もそのまま高くしているから、頭上空間は普通。


ムルティプラの座面位置とサイドガラス下端の距離は市販車では最も小さい、かどうかはわからないが、この逸脱感は絶大である。
グラスエリアの天地が大きいと、楽し気に見えるし、実際に楽しい。

 

実際はこれ(↑)。


9. 「3x2」


ムルティプラのアッパーボディはなぜ極端に上下に大きいのか。
前述したが、普通この全高ならウエストラインをもっと上げてもいいように思える。ウエストラインを低くしたかった理由には、シート配列が関わっている。

シート配列は前列に3、後列に3の独立6座。
横に3個を詰め込むため室内幅はできるだけ大きくしたいので、車体全幅は1875mmまでは広げたが、これ以上はいろいろと成り立ちにくい。

全幅が限られているならドアを薄くするしかない。しかし側面衝突の安全確保の問題から薄くするにも限界がある。人間が横に並んだときに最もかさばる胸から肩のあたりの幅だけでも確保すれば、窮屈感は小さくできる。その部分を厚さの薄いガラス部分にあてがえばいい。

というわけで、横3人掛けを成立させるため、ウエストラインを低くして、ドアとガラスの境界部に台地状のひじ置きもどきができた。
  

慣れないうちは、床が高くサイドガラス下端が低いせいで、なんだか落ち着かない。慣れると世の中の普通では飽き足らなくなってくる。

 


10. 見えにくいカタチ

 

へんなカタチに見えるムルティプラであるが、そのスタイルのイケてるところを引き出してみよう。


写真の明るさを低くしコントラストをアップして陰影を付けると...、

 

ボテッとした上段グリルは引き締まり、ボディサイドもドアハンドルを境にしたラインが強調され、フロントホイルアーチからバンパーにかけての抑揚が明確になる。 デザイナーやモデラーが表現したかったであろう(意外と)精悍なカタチが見えてくる。 これなら2段グリルも必然に思えてくる。

実物からこれをイメージするのは難しい。イタリア本国のタクシー用途のように、ボディカラーが白だったりバンパーがボディ色でない場合にはなおさらである。